ふかふかしたソファで新聞を読んでいた緑髪の男の人が、私の姿を見てにっこりした。
「買い物は如何でしたか?」
私はぱっと荷物を掲げて言う。
「はいっ! とっても、とっても楽しかったです!」
「それは良かった」
ブラックコーヒーを啜って、彼は眼鏡の奥の目を細めた。
「麻桐……言い出したてめぇが如何して部屋で新聞読みながらコーヒー飲んで留守番してんだよ…!」
イーヴィルさんが無表情で言った。
……否、無表情ではあるけれど、私は知っている。
イーヴィルさんの拳がわなわなしているのを。
緑髪の男の人、もとい麻桐さんは爽やかな笑顔をイーヴィルさんに向けた。
「だって僕、ボスですから♡」
「パワーハラスメントかこの野郎」
ひくっと口を動かして呟いたものの、イーヴィルさんは大人しく空いているソファにどさりと座った。
イーヴィルさんは一番麻桐さんとの付き合いが長いから、きっと引き際を知っているのだろう。
諦めが肝心、と偉大な人は言っている。
その様子を見てくすりと笑っていたら、麻桐さんが新聞を畳んでこちらに歩いてきた。
「さて、ラビ。早速で悪いのですが、手伝ってもらっても?」
私は慌てて一番大きな買い物袋をがさがさした。
「はいっ! とりあえず、環境設定しちゃいますね」
取り出したのはノートパソコンだ。
艶々した外装をぱかっと開くと、暗い画面に私と麻桐さんの顔が映り込む。
ふっと、画面の中の麻桐さんが微笑んだ。
「ああ、そういえば遅くなりましたが」
「? 何でしょうか麻桐さん」
きょとんと画面の影から本人へ目を動かせば、彼は笑って私の頭に手を置いた。
お帰りなさい。
(画面に映った姿よりも、その笑顔は輝いていました)