「イーヴィルさん」

 

 

 

肩を揺すられて目が覚めた。

覚醒しきらない頭のまま辺りを見回せば、行き着く金色。

窺うように、丸い目がこちらを凝視している。

 

 

 

「イーヴィルさん、もうすぐパリの駅に着きますよー?」

 

 

 

目を瞬いて身を起こすと、目の前に少女が立っていることに気がついた。

 

俺は前髪をかきあげた。

 

 

 

「ラビか……?」

 

 

「私じゃなくて、麻桐さんの方が良かったですか?」

 

 

 

鈴を転がすように、少女はころころと笑った。

寝起きだからか、少し眩しい。

 

ちゃんと起きてくださいねー、と言ってラビは荷物置きからトランクを移動し始める。

 

その後ろ姿と夢の影が被ったような気がした。

 

思わず呟く。

 

 

 

「夢を見た」

 

 

「ふぇ??」

 

 

 

ラビが間抜けな声を漏らした。

 

 

 

「どんな夢ですかあ?」

 

 

 

よいしょっ、と声をあげてふたつ目のトランクを運ぶラビを目で追って、俺は首を傾げた。

夢を見たのは良いとして、はて、俺は一体どんな夢を見ていたんだか。

 

考えて、浮かばなくて。

 

 

 

諦めた。

 

 

 

「……忘れた」

 

 

 

そう言えば、ぷっと吹き出す音がした。

 

 

 

「何ですか、それ」

 

 

 

可笑しそうに口を押さえて、相手は笑う。

列車の窓から差し込む日差しが、彼女を照らしていた。

 

金色。

 

光のような少女。

 

 

微かに振動する一等車両の中で、椅子から立ち上がりながら言った。

 

 

 

「何だろうな」

 

 

 

少女につられるように穏やかな呼吸を吐き出して、俺は歩く。

 

 

 

 

 

列車は行く

 

(笑顔の君を乗せて)