イーヴィルは隣を一瞥する。
ラビエールは肩身の狭い思いで座っているのか、完全に委縮して彼を見つめ返した。
「へ、変でしょうか…?」
彼女は小さな声でそう尋ねた。
彼の左目が丁寧に編まれた金髪に、白い首筋に、落ち着いた紅に包まれたラインに向けられ、再び少女の大きな瞳を捕らえた。
「嫌いじゃねえし、変でもねえよ、別に」
口を開くイーヴィルに、麻桐は溜め息をつく。
イーヴィルが見遣るバックミラーで上司の唇が言う。
声は無かったが、その動きで何と言ったかくらい、裏の世界で生きている彼にはわかった。
(女心のわからない男性(ヒト)ですねぇ、貴方は)
上司に聞こえるように彼が舌打ちすると、上司は唯、鼻で笑った。
「??」
きょとんとラビエールがふたりを交互に見た。
見えない信号やりとりを受信できるほど、彼女は鋭くなかった。
むすりと運転席を睨んだ後、イーヴィルはゆっくりとラビエールの肩に腕を回して引き寄せた。
ラビは驚いたように隣の男を見る。
「イーヴィルさん? どぉしました??」
「別に」
少女の細い肩を抱きながら、彼は平然とそう返した。
ラビは不思議そうな顔のまま、とりあえずイーヴィルの肩に頭を預けた。
イーヴィルは言う。
「しゃきっとしろよな。人、たくさんいんだから」
言われた少女はううと呻いた。
「紅って派手ですよね、目立ちますよね……私じゃ、場違いですよう…」
「そんなことねぇだろ」
頭を抱える少女にそう言いながら、イーヴィルは麻桐を窺った。
麻桐が嫌でも聞き耳を立てているのがわかる。
彼は微かに頬を赤らめ、半分やけっぱちで言った。
「きっ、綺麗なんだから、自信持てよ!」
吃驚仰天したのか、ラビは跳ねるようにイーヴィルを見た。
「へっ!? や、あの…今何か」
「だからっ」
少女に見つめられ、ますます上気した顔を背けて彼はぶっきらぼうに繰り返した。
「ドレス、似合ってる…から。……自信を持て、と…」
彼の言葉はごにょごにょと尻すぼみになって消えた。
まるで信じられないと言いたげに、少女は目を見開いてまじまじと彼の横顔を凝視し、一生懸命に彼の言葉を聞いていた。が、みるみるうちに照れたようにふわりと頬を緩める。
「あ、はいっ! わわ私、頑張ります! ……えへ」
嬉しそうにふにゃりと笑う少女は、改めてイーヴィルの肩に体重を預けた。
彼の努力は報われたらしい。
少女の緊張は解けたようだった。
ほっと息をつけば、運転席で肩を震わせる上司がいた。
片手運転している。
無論、外した片手は口を押さえることに使っているのだろう。
イーヴィルの額にぴきりと青筋が立った。
今すぐ爆笑中の上司を如何にかしたいようだった。
「イーヴィルさん??」
彼の視線が何処に向いてるのかわからず、少女は不思議そうな顔をする。
彼は慌てて運転席から少女に視線を戻した。
「あ? 如何したラビ」
イーヴィルに近距離から見つめられ、少女は小さく声を漏らしておどおどと目を泳がせた。
「イーヴィルさんも、いつもと雰囲気違いますよねぇ」
言われて、彼は「ああ」と納得する。
「そういや髪束ねてっからな。服も普段と違うし、その所為じゃねえか?」
ラビエールは窓の外へ顔を向けて、何やらごにょごにょと言った。
よく聞こえなくて彼が耳を寄せて聞き返せば、ラビは消えそうな声で繰り返した。
「イーヴィルさんの場合、困りますよ…」
「何がだ??」
理解できないと言いたげな彼の前で、少女の顔がドレスの色に染まってきた。
「……格好良過ぎて、困ります…」
きゅうと紅いドレスを握って、彼女はそう白状した。
恥ずかしいのか、意地でも彼の方は見なかった。
イーヴィルは目をぱちくりして、ラビの横顔を観察した。
「ほォ…」
興味深げに声を漏らし、イーヴィルはラビの耳元に口を寄せ、上司に聞こえないほどの声で言った。
「褒め言葉として受け取っとこうか」
Party
(そういう口説き文句、嫌いじゃねえぜ?)
(え、や…そそそうゆうつもりでは)
(俺好みだ)
(えとえとえと、わわわわ私ッ)
((こいつの顔って、加虐心煽るんだよな…))