「トリック・オア・トリート! です」

 

 

 

私の元気な声が部屋に響いた。

 

今日は十月三十一日。

つまりハロウィンだ。

 

もともとハロウィンとはケルト民話のお祭りであるため、キリスト教とは関係がない(ネット情報抜粋)。

ましてや、香港に所在するこの会社さんには全くもって縁もゆかりもないのだけれど。

 

折角のイベントなので、挨拶がわりに言ってみた。

 

 

 

「おやおや、これは困りましたねぇ」

 

 

 

緑髪の男の人はいつも通りニコニコしながら、そんなことを言った。

 

全然困っているように見えない。

 

麻桐さんは赤縁眼鏡を押し上げて、口を開いた。

 

 

 

「僕としたことが、うっかりお菓子を忘れてしまいました。あげたいのは山々なのですが、この通り…手持ちが無いもので」

 

 

 

私はころころと笑った。

 

 

 

「いいえ、良いんです。ハロウィン気分を味わいたくて言ってみただけですから」

 

 

「しかし、それではハロウィンのルールに反しますよ。嗚呼、ラビエール。この場合はあれですね」

 

 

 

麻桐さんは一拍おいてにーっこりした。

 

 

 

「僕に悪戯して良いですよ♡」

 

 

「ぶッ!!??」

 

 

 

あまりのことに、むせてしまった。

 

 

 

「なっ、なななな何を仰ってるんですか麻桐さんッ!? 悪戯なんてそんな……恐れ多いです!」

 

 

 

そもそもこの人に悪戯なんてしようものなら、後々どんな目に遭うかわかったもんじゃない。

わたわたと慌てる私に、麻桐さんはくすくす笑って首を傾げた。

 

 

 

「如何しました? 僕に悪戯できる人なんて、恐らく人類六十億と言えど貴女だけですよラビエール。どうぞ心置きなく、悪戯してください」

 

 

 

か、勘弁して……!

 

私はダラダラと冷や汗を流した。

麻桐さんに悪戯なんて、できっこない。

 

そんな気持ちを知ってか知らずか、彼はじりじりと壁に手を這わせた後、耳元で囁いた。

 

 

 

「貴女になら、どんなことされても構いませんよ……?」

 

 

 

 

 

 

緑髪の彼の場合 Halloween

 

(これじゃ、どっちが悪戯されてるのかわかりません)